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坂部恵奈

Ena Sakabe

二胡を王侃氏、張照翔氏、杉原圭子氏、姜建華氏に師事。名古屋音楽大学作曲科講師、稲垣宏樹氏に音楽全般について師事。上海音楽学院研究科修了。本場中国の伝統的奏法や演奏技術、姜氏のエネルギーを全身で表出する演奏技法を引き継ぐ。コンクール受賞歴多数。

現在、演奏活動とともに、大学の二胡部や音楽教室等で後進の育成を行う。 またおんのちから(音楽と言葉)を通して、一人一人の内面と繋がることを重視し、個別演奏会の開催や、自らの体験談と演奏を併せて提供する講演コンサートにも力を入れる。

私の人生を照らした一筋の光

32歳のころの私は、難病による全身の関節に絶え間なく続く痛みに、もがき苦しんでいました。
闇に閉ざされたような毎日に何か光を見いだしたくて、
どんなことでも良いからと、自分にできることを探していました。

ある日、偶然目にした記事で私の人生は一変しました。
それは「中国の楽器・二胡にこ」との出会いでした。
二胡は他の楽器に比べ軽量で、椅子に座りももの上に乗せて、自然な姿勢で弓を構えれば音が出ます。
また、哀愁を帯びた人の声に近い二胡の音色は、病苦にあった私の心にすっと入り込み、
私の心を癒してくれました。
体が動かない中でも目新しいことができ、上達するごとに褒めてくださる先生のお陰もあり、
私は病気で完全に失っていた自尊心・生きる気力を少しずつ取り戻していきました。

思えば私は子供の頃から、どうにもならない感情に押し流されてしまいそうなとき、
ピアノなどの楽器を弾くことで、自分のありのままの感情を見つめ、解放させ、自分の魂と対話していたのだと思います。

そんな私の二胡の音色を、「魂の音」と言ってくださる方もいて、
演奏の依頼が徐々に増えていきました。
体の自由がきかず、人前で演奏するには大きな覚悟が必要でしたが、皆さんに支えられ音楽を仕事にするようになりました。

宿命を使命に変える人生を、
二胡と共に。

この頃の私は、関節痛を起こす難病の他に、悪性腫瘍も患い、
余命を告知されるまでに進行していました。 もともと看護師として、ICUや心臓血管外科病棟などの生死の最前線で働いていた私。
自身が病気になり、患者さんが魂の底から叫ぶように発していた苦悩を、我が身を持って体験することとなりました。

それは医療者でいた頃の想像をはるかに超える、壮絶な体験でした。
元気でいた頃には当たり前だった、ごくごく普通の生活を送れる身体に戻るまでに、
7回の手術と850時間を越えるリハビリが必要でしたが、
いま元気を取り戻しこうして活動していられるのは、様々な出会いに支えられたお陰だと思っています。

私に希望の光をもたらしてくれた二胡との出会い、
二胡と出会ったことによって知り合うことのできた、たくさんの人々、
ずっとそばにいた家族でありながら、私の危機的状況を前にして初めて見せる姿や、
今まで知ることのなかった頼もしさに気づけたこと、
拘縮し動かなくなった私の左腕を、「もっと自由に二胡が弾けるように」と、
今も治療やリハビリを続けてくれている先生がた、
例え身体は動かなくても、精神の中だけはどこまでも自由であることを教えてくれた一冊の本、
自分の内側に眠っていた、真なる自己…など。

様々な出会いが、その局面に必要な支えとたくさんの気づきをもたらし、
病気になる前よりもむしろ病気を経験した後の方が、目に映る世界を美しく鮮やかに彩ってくれました。
この世に生を受け生まれた素晴らしさに感謝し、周りにいてくれる人たちとともに過ごせる時間を、
最期の瞬間まで大事にしよう、そう思うようになりました。

人間の精神力、生存力、生命力は、医者でさえも推しはかることのできない底しれない力を持っています。
人は人に支えられ未知なる力を発揮できるし、また逆境によって成長し、
それまで自分でも気づくことのなかった、内なる強さ・逞しさに目覚めていくものなのではないでしょうか。

音の持つちからと
二胡奏者“坂部 恵奈”にできること

明日を生きる気力がもう持てないとき、音楽が心を包み癒してくれる。
心がザワザワしてしまって自分でもどうしようもないとき、音楽が心をまぁるくしてくれる。
音楽が、単調な毎日にハリと高揚感を与え、内側からエネルギーを沸き立たせてくれる。

音楽にはそういった、心を整え、魂をエネルギーで満たし、明日を変えてくれる力があると思うのです。
音楽も言葉も、空気の振動によって伝わります。
そのおんの持つ振動・波動は、私たちが思っている以上に意識の奥深くに、静かに染み渡るように、
大きな影響力を持って、届きます。

看護師として働いていた頃、長い間意識が無かった患者さんでも、
耳元で大好きだった音楽をかけるとピクッと反応が見られる、ということが幾度かありました。
人間の五感の中で、聴覚が最後まで残ると言います。

患者さんやご家族の涙も目にしてきた私としては、そういった意識のない方や、
病院から出られずコンサートに行くことの出来ないような方にも音楽を届けたいと考え、
オンラインでの「オンライン個人向けコンサート「あなたに贈る演奏会」」というサービスを開始しました。
もちろん、一般の方からのご予約もお待ちしていますし、
今は病気の方も回復して通常のコンサートに来ていただけることが一番の願いです。

そして、依頼があった時には、音楽だけでなく
自らの体験をお話しすることもさせていただいています。
音楽もお話しも垣根なく、皆様と楽しく心や魂の交流ができることを望んでいます。

私の奏でる二胡の響きが皆さまお一人お一人の魂に届き、
この先の人生をさらに躍動させる力を呼び覚ますきっかけになれたら嬉しく思います。

受賞歴

2009年
日本二胡振興会 全国二胡検定 最上級合格
2010年
第12回“ 万里の長城杯”国際音楽コンクール 優秀賞受賞
2011年
上海音楽学院 二胡大師班夏令 修了
(王永徳、高韶青、欧景星、陳春圓、段皑皑、各氏に師事)
2013年
第31回 アジア国際音楽コンサート(公開コンクール)総合3位
2014年
国際第四回中国器楽賽(香港芸団主催コンクール)銀賞受賞
2019年
第19回 大阪国際音楽コンクール民族楽器部門入賞
2021年
第23回 “万里の長城杯”国際音楽コンクール 審査員特別賞

主な演奏実績

2008年
中国文科省主催「日中友好平和条約締結三十周年記念演奏会」
西安人民劇場にてデュオ演奏、万里の長城にて合奏
2009年
「四川大震災チャリティーコンサート」にてソロ演奏
2011年
「王胡会 東日本大震災チャリティーコンサート」
総合プロデュースとソロ演奏を務め、収益の全額を赤十字社を通し寄付
2012年
奈良県 橿原神宮にて奉納演奏
奈良県 大神神社にて奉納演奏
2013年
和歌山県 熊野速玉大社にて奉納演奏 自作曲2曲を奉納
2013年
蒲郡市立ソフィア看護専門学校より依頼を受け 校歌演奏CDの制作
2017年
リサイタル開催 電気文化会館
2018年
奈良県 春日大社 ご創建千二百五十周年祭にて奉納演奏
蒲郡市立ソフィア看護専門学校 「特別講演」にて講演と演奏を務める
2016~
2018年
京都 清水寺にて奉納演奏(年1回)
2013年~
名古屋熱田神宮「秋の集い」例祭にて毎年演奏